愛毒が溶けたら
兄貴は、きっと怒っている。兄貴の制止を振り切って、俺が一人ここにやってきた事に。

もしかしたら、俺も危ない目に遭ったかもしれない。今回二人とも無傷だったのは、奇跡に過ぎない。

二次被害を招くところだったんだよ――と、兄貴の顔に書いてある。本当は、俺を叱りたい気持ちを、今必死に我慢しているのが、兄貴の雰囲気から伝わってくる。


「……次は、しない」

「! その言葉、忘れないように」


帽子をキュッと目深に被り、自分の持ち場に戻ろうとする兄貴。だけど、俺に背を向けた瞬間――


「無事でよかった」


そう言って、俺たちから離れた。


「……っ、」


怒りたいのを我慢して、いや……怒りよりも、それ以上に。三石や俺の身を心配してくれていたのかと思うと、急に胸に来るものがあって。

俺は小さい声で「ごめん」と言うしか、何も返せなかった。
< 168 / 398 >

この作品をシェア

pagetop