お巡りさんな彼と、その弟は、彼女を(密かに)溺愛する
いつもニコニコしていた親父がいなくなり、家の中で笑う者はいなくなった。

母さんは俺らの前では気丈に振る舞っているが、夜遅くまで泣き、朝早くから泣いていた。一体いつ寝てるんだって思う程、自分ひとりの時間は、親父を思って泣き続けていた。



「親父、どうして交通事故なんか……」



親父は運転に慎重で、あまりスピードを出さなかった。親父は電車通勤だったし、車に乗る機会は、休日に家族と出かける時だけ。


「遅刻するから急いで!」と家族に言われても、速度を上げることはなかった。「ペーパードライバーなお父さんに無茶を言わないように」なんて、冗談のような本気の声色で、親父は何度も俺たちに言い聞かせていた。
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