お巡りさんな彼と、その弟は、彼女を(密かに)溺愛する
泣く母さんを見た事はあっても、怒鳴る母さんは初めてだった。衝撃で、どうしたらいいか分からず立ち尽くす俺。そんな俺の腕を……



「勇運、おいで」



兄貴が引っ張った。

だけど、二階にある俺たちの部屋には行かなかった。すぐそばのリビングに隠れ、玄関での話し声を聞いた。

でも、俺は思うんだ。

この時に盗み聞きをせず、大人しく部屋に行っていれば良かったんじゃないかって。そうすれば長年悩むこともなかったんじゃないかって。今でも、自問自答している――



「今日は、どのような用件で」

「謝っても謝りきれないとは思っています、だけど……何もしないわけにはいかなくて……っ。本当に、ウチの子が……」

「もう、いいですから」

「ウチの子が、急に車の前に飛び出さなければ、こんな事には……っ」

「……っ」



その時、母さんの声にならない声を聞いた。息を呑む音っていうのは、実際に聞こえるものなんだと――一瞬だけ静まり返った家の中で、初めて知った。
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