愛毒が溶けたら


「む、夢中になんて……っ! それに、あれは偶然の産物というか、」



ワタワタ訂正する私に、勇運くんは「違う」と言った。

そして私の手を離し……たかと思えば、大きな背中を丸めて私の顔を覗き込む。



「キスに夢中になるのは、俺」

「……へ?」

「冬音とキスなんて、そんなの嬉し過ぎるだろ?」

「っ!」



イタズラする子供みたいに、勝気な笑みで「ヒヒ」と笑う勇運くん。

そんな彼を見て、私が思い出すのは……成希のあの一言。



――相変わらず、キスが下手くそだな



あの言葉で、何度も傷ついてきた。

だけど今、



――冬音とキスなんて、そんなの嬉し過ぎるだろ?



勇運くんが、悲しい思い出に上書きしてくれた。私の傷が、また一つ塞がる。
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