お巡りさんな彼と、その弟は、彼女を(密かに)溺愛する
◇
ガチャ
「たっだいまー!」
「夏海、手を洗ってねー」
羞恥心を少しずつ帰路に置いてきた私は、家に着くころには平常心に戻れていた。
といっても……
「お邪魔します」
家庭教師をお願いした勇運くんも一緒に家の中に入るのだから、静かになりつつあった心臓の音は、クレッシェンドのように再び強く鳴り始める。
「俺も手を洗う。夏海について行けばいい?」
「は、はい……っ」
勇運くん、夏海の事を名前で呼んでくれてるんだ。昨日よりも、更に歩み寄ろうとしてくれてるんだね。
「でも、勇運くん……また無理してないかな?」
病室では無理がたたって、石化してしまった勇運くんだ。今だって、相当無理してるんじゃ――!?