愛毒が溶けたら

「な、夏海……。け、けが、ある……?」



何が起きているか分からない状態で。とりあえず、夏海を見る。夏海も、何が何だか分からない中、力なく首を横へ振った。



「ぼ、くは……大丈夫……。ねーちゃん、何があったの……?」

「わ、わからない……っ」



何が、なんだか、分からない。だけど、大きな音が聞こえた瞬間。私は名前を呼ばれて、そして――押された気がした。

あの声は、誰だった?

そして押したのは……誰だった?



「あ……、ね、ねーちゃん……!」

「う、そ……っ」



記憶を辿っていると、強い風が吹き、舞っていた砂埃を取り払っていく。

それにより、今、この場でなにが起きているのか。だんだんと視界がハッキリし、鮮明になっていく。

だけど、そこで私が目にしたものとは――



「ゆ、勇運くん……!!」



どこから飛んできたか分からない、大きな看板。それが目の前に落ちている。

だけど、その看板がある場所は、さっき勇運くんがいた所。

よく見ると、周りに勇運くんがいない。勇運くんと一緒に手を繋いでいた、夏海のお友達の姿もない。
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