お巡りさんな彼と、その弟は、彼女を(密かに)溺愛する
「えっと、この前は……、」


だけど「この前は」と口にした時。

私の中で封印している「成希」の存在が急に濃くなって、


「……っ」


思わず、口を閉じてしまった。


この前は、ありがとうございました――って言うだけなのに。

たったそれだけの事が、口に出来ずにいた。


「……す、すみません」


申し訳なくて、頭を下げる。

だけど、お巡りさんは――私の頭を、優しく撫でてくれた。


ポンッ


「前も言ったけど、君は百パーセント悪くない」

「え……」

「だから、謝らなくていいんだよ。
あれから何もされてない?」

「は、はい……っ」


顔を上げると、心配そうに眉を八の字にしたお巡りさんと目が合う。

わ……、こんな近くにいてくれたなんて。

一言「はい」と呟くのが、限界。

そしてお巡りさんも――その一言さえ聞けば満足らしく、口角をクイと上げた。
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