お巡りさんな彼と、その弟は、彼女を(密かに)溺愛する

「だから勇運、諦めないで。絶対に助ける!」

「……」



でも、それを兄貴に言うと……絶対、兄貴は泣くよな。今でさえ泣きそうなのにさ。

今だって、どうせ柴さんにしごかれて、やっとの思いで、ここまで来たんだろ?


分かるよ、兄貴の弟なんだから。

兄貴のことくらい、すぐに分かるんだ。


……いや。分かってる、つもりだったんだ。


でも、俺は知らなかった。まさか兄貴が、”親父の死を乗り越えられていない”なんて。

兄貴が少しのほころびを見せてくれたから、その破片を繋ぎ合わせて、やっと真実にたどり着いたんだ。


なぁ兄貴。

親父が死んで、苦しかったよな。悲しかったよな。


だけど、親父がいなくなったあの家で、自ずと兄貴が父親役になっていった。そして兄貴は、自分がそうなるだろうと予感していたんだろうな。だから、泣かなかったんだろ。

本当は泣きたかったくせにさ、



――一人で背負わなくても良いんだよ、母さん

――俺たちは家族なんだから。良い事も、悪い事も、全部まかせ合おうよ



そう言って笑って、俺と母さんを支えた。自分が父親の代わりを全うしようと、固く重い意志を、一人で背負って。

だから泣かなかった。その日から、泣けなかった。

兄貴は自分の気持ちを殺して、今まで生きて来たんだ。


だからさ、兄貴。

もういい加減、自由になれよ。


誰も兄貴を縛っておきたくないさ。俺だって、母さんだって。

もちろん、冬音だって――

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