愛毒が溶けたら

『みんな、無事だね?』

『うん……』

『そうか。良かった……っ』



その時のお父さんから、まるで泣いているような声が聞こえて。

私は、そんなお父さんを見ちゃいけない気がしたから。そこからずっと、お父さんの顔を見ずに、過ごしていた。


だから、部屋に入って来た時。いつもと同じ表情を浮かべたお父さんを見て、なんだか平和な日常がすぐそばに戻って気がして……ちょっとだけ安心できた。



「疲れてるところ悪いけど、電話だよ」

「電話、私に?」

「勇運くんのスマホから、私に電話がかかって来た。もちろん、本人ではない。

勇運くんのお母さんだ」

「勇運くんの、お母さん……?」



会ったことはない。勇運くんの話の中で、たまに出てくるくらいだ。

そんなお母さんが、私に電話……?
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