お巡りさんな彼と、その弟は、彼女を(密かに)溺愛する
すると、それに気づいた男子が私を見た。
そして「俺が何で逃げなかったか。教えてやろうか」と聞いてきた。
今更?と思わないでもなかったけど、とりあえず聞く事にする。
その答えとは――
「お前を助けるために逃げなかったんだ」
「え……」
私の机の前に立つ男子。
見下ろして私を見る瞳に、まだ燃え尽きない炎を感じる。
男子の中には――生きたハチが、まだ見えているみたいだった。
「もう一度言う。早く逃げろ」
「でも、もうハチは……」
まさか、別のハチが、もう一匹いるとかじゃないよね?
慌てて、ハチがいた場所に目をやる。だけど、やっぱり何もいない。
クラスの皆も教室の隅からバラけ始めているし……ハチは、もういないんだよね?
「じゃあ”逃げろ”って、何から……?」
すると、男子は言った。
「――これ以上、刺されんなよ」
力強い言葉と瞳で、そう言った後。
私の机の前から、男子はいなくなった。