お巡りさんな彼と、その弟は、彼女を(密かに)溺愛する
柴さんに促され、席に座る。

そして名前を告げた後に机上に現れたのは――「あの日」に何度も見た、書類たち。


「っ!」


あの日の光景がフラッシュバックしそうで……。とっさに目を瞑ってしまう。


「こちらに署名を……って、大丈夫ですか?」

「三石?」

「……っ」


深い呼吸を、何度も、何度も繰り返す。だけど、やっぱり目が開けられなくて……。

あぁ、こんな事なら、やっぱりお母さんとくれば良かった。勇運くんや柴さんに、かなり迷惑をかけちゃってる……っ。


「無理しなくていいんですよ。また後日でも、」


リングに上がった私に、「降参」という名の白いタオルを投げるように――柴さんが「頑張らなくていい」と私に促す。

分かってる。

今の私には、この紙を直視出来るだけの余裕がない。白いタオルを投げられても当然だ。

だけど――
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