愛毒が溶けたら


「もう、少し……頑張りたい、です……っ」


ギュッと握った拳が、小刻みに揺れている。例え目を開けられても、こんな手じゃ名前を書けっこない……って。


分かってるのに。

ここで引き返したくなかった。


ここで引き返す――それは、成希に負けてるのと、同じ事だと思うから。


――チッ


もう私は、あの音に怯えたくない。


「……っ」

「三石さん……」


柴さんが小さな声で、私の名前を呼んだ。

その時だった。

フワッ


「手、借りるぞ」

「え?」

「お前は、そのまま目を閉じていろ」


勇運くんが後ろから手を伸ばし、私の手の上から、自身の手を重ねてくれる。
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