愛毒が溶けたら
それにしても、勇運くんはえらいな。

私なんて……


――何て呼んだら、いいかな……?


私なんて、勇運くんの名字すら知らなかったのに。 いつも成希の事で悩んでいて、心ここにあらずだったから……。


成希と一緒にいる事で、大切な時間をたくさん逃していたと痛感する。


早く別れれば良かった。そうすれば、クラスの皆との貴重な時間を、存分に楽しめたかもしれないのに。

全ては、成希から逃げられなかった私の弱さのせい。


「私……、悔しい」

「……ん」


気付けば、閉じた目から、涙がポロッと落ちていた。

勇運くんは「書類に落ちるぞ」と言って、自分の袖で、グイッと涙を拭きとる。


そっけなく思えるけど、勇運くんはきっと、私に「泣くな」って言ってるんだ。彼なりの励まし方に、また涙腺が緩む。
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