愛毒が溶けたら
「う〜っ」

「書けたから、もう泣くな」

「え……」


わ、早い! 勇運くん、いつの間に……。


「ありがとう、勇運くん」

「ん」


目を開けると、ちょうど柴さんが書類を持ち上げた時だった。柴さんは署名蘭を確認し、「これで大丈夫です」と頷く。

そしてファイルに閉じる。のだけど……その時、実質勇運くんが書いた私の名前が、チラリと見えた。

それは、スゴク綺麗で……。

「私」よりも堂々とした「三石 冬音」の文字が、そこにあった。


「では、これで受理しますね。本日はありがとうございました……の前に、これを使ってください」


尚も無表情の柴さんが出したのは、テイッシュの箱。そうだ。私、泣いちゃったんだ。恥ずかしいな……。
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