お巡りさんな彼と、その弟は、彼女を(密かに)溺愛する
何を思ったか。柴さんが、さっき書いた“自身のサイン”を、お巡りさんにピラリと見せる。


「これは?」

「私のサインです」

「要は……ゴミですか?」


お巡りさんが真顔で言うものだから、おかしくて。涙が止まり、自然と私は笑うことが出来た。


「私のサインをゴミだなんて。あなたには、この貴重さが分からないのですね。一緒に働いてる者として失格ですよ」

「いや、柴さんの自筆署名なら嫌っていうほど見てますから。俺の上司だし……」


え。柴さんって、
お巡りさんの上司だったんだ……っ。


「部下なら上司のサインくらい、有難く受け取りなさい。相勤者*でしょう」

「え、遠慮します……」

「そう言わず」

「遠慮します!」


交番の中に集まる、賑やかな声。

それらが、私の記憶にある「あの日」を、わずかに遠ざける。


(相勤者…勤務時、常に行動を共にする人のこと)
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