愛毒が溶けたら
「大丈夫。すぐそこで莉音ちゃんと待ち合わせなの」

「でも……」

「どうしたの、お母さん。顔が怖いよ?」

「!」


怖い――というと、お母さんは私に伸ばした手を、パッと引っ込めた。代わりに「スマホは?」と聞いてくる。


「ちゃんと充電してある? どんな時も、肌身離さず持っておくのよ?」

「はーい。じゃあ、いってきます!」


いってらっしゃい、とお母さんが言ったのかは分からない。

だけど振り返った時に、「行っちゃダメ」と――お母さんの顔に、そう書いてある気がした。


バタンッ


「もう、お母さんったら。私は夏海じゃないんだから、そんなに心配しなくてもいいのに」


外に出すのは不安だろうけど、でも、ずっと家にいるのも暇だもん。運動は体に良いって言うしね!


「ちょっと歩いたら、すぐに帰ろう。モヤモヤも吹き飛ぶだろうし」
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