小説
冬の学校ってなんかいいよね。暖房は付いてるし、プールの授業はないし、雲があることの方が多いから麦わら帽子は必要ないし。しかも夜の景色がなんかイイ感じでいい。
「…。
クリスマスなんかにはデートして、寒いねってお互いの手のひらを重ねて、それから…
「…終わった?ならさっさと説明してくれ。
屋根より高く、鳥より低く飛ぶ鯉のぼりの目から、雪がゆっくりとこぼれている。
そっれを学校の屋上にあった1本の電信柱にもたれかかりながら僕たちは言い争っている最中だ。僕が一方的に言っるように聞こえるかもしれないけれど誤解しないでほしい。
「そうは言われても、さっきのは本当に偶然なんだ。
僕たちは主人公には選ばれなかったのに。いや、一度は僕が主人公として作られたのに、その物語は、僕をメインとした創作物は没になり、そして新たな主人公が、同姓同名の彼が生まれ物語は語られたのだ。これは神に捨てられた没落青年の物語だ。

「でもよかったじゃないか。元の世界に戻れてさ。
本当にただの偶然だったのに、青年は信じてくれそうにない。私のわずかに経験した事あるような、無いようなデートプランを教えてあげようと思ったのに、これだから待ちの男は。
あの頃夢だった、白馬に乗った王子様が私を危機から救い出す。そんなヒロインになりたかったのに今ではこうして主役の座を奪われている。名前をもらったのも、その世界に踏み込んだのも、私が一番最初だったのにな。
まあでも、あんな不安定な世界で苦しそうな死に方にされるくらいなら失敗作の女子高校生の方がまだ100倍ましだ。
「ねえ、青年はキスしたことある?
「突然何言い出すんだよ。
突然何言ってんだよ私。
「その、何となくなくなんだけど。
「うん。
電信柱から離れて、青年に正面に立つ。
よく見るとかっこいいな。目は少したれ目で優しそうな印象、鼻は整っているし、これは三秋凛が好きになるはずだ。
「最初で最後の出会いになると思ったからさ。
「それは僕も思っていた。またいつか会える予感もしてるけど。
青年の方から手を差し伸べてくれた。
私は順番を間違っていたのだ。恋人同士になったら先に手をつなぐ方がお互いの心の
準備にもつながるだろう。
「お互い頑張ろうな。
「え。あ、うん。
そうですよね。握手ですよね。知っていましたよ、はい。私たちはあの二人みたいな恋人じゃないですからね。
「どうしたの?
「何でもない!
雪ってふり続けるとこんなに真っ白になるんだね。
寒さのせいか少しづつ瞼が下がっていく。
「それじゃあ、またいつか。
青年が先に目を瞑り手が離れていった。
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