小説
青年は佐野冬樹と言うらしい。
何処にでもいそうだ、隣をすれ違った通行人にそう自己紹介されたとしてもすぐに忘れてしまいそうな名前だな。主人公の名前を知った僕は真っ先にそう思った。まあ、そんな物語が起きたら、忘れようとしても忘れられないかも知れないけれど。
佐野は高校でずっといじめを受けていた少女、三秋凛との出会いから物語が始まる。
「誰でも書けそうな…あっ。
つい口に出してしまい、急いで文庫本を貸してくれた少女を見上げた。
けれど白いワンピースを着た麦わら帽子を被っていない少女はただただ向こうの、風を待って立っているだけだった。
よかった、聞こえていなかったらしいな。
うん。…続きでも読むか。