小説
人が真剣に何かを取り組む姿勢って何でこんなにもどうでもいいと思えてしまうんだろう。
この考え方は私しか思わないらしい。他者は頑張れとか、カッコいいとかそう思うそうだ。ならばこの考え方は私だけのものだ。

それなのに胡座で1冊の小説を読む彼の姿はとても集中しているように見えた。今は何処ら辺を読んでいるのだろう。
青年と少女が恋に落ちている所だろうか。それともいじめの原因を排除するためにいじめっ子を殺す計画を立てている場面だろうか。もしかしたら、もう殺したあのかも知れない。
そんな事を知ったところで私の為にはならないのに、彼に興味を持ったって意味がないのに、何考えてるんだろう。

「風、まだかな。

「何か言った?

左右に首をふる。否定の動作だと習ったからやってみた。

「何でもない。今どの辺読んでるの?

「うーん。三秋がお父さん探しに行ってるあたり。

あぁ、確かにそんなシーンがあったような無かったような。タイトルがないから同じ文庫本なのか分からないけど。そう言えばこの少年はお腹空かないのかな?ここに来てからもう3時間は経ったと思うのだけれど、トイレは大丈夫なのだろうか。睡眠はとるのだろうか。

「ねえ。

少年の低い声と同時に顔を上げて私をみてくる。目が合ってしまった。

「なに?

「…何か、ごめん。

何に対して謝ったのだろう。それに今、このタイミングで?

「…よくわからないけど、いいよ。

「うん…。

そう言い残してまた小説の世界に入ったらしい。

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