一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 大智を交えて改めて乾杯し、またみんなで歓談を楽しんだ。半年ぶりに会ったという四人は、しばらく楽しそうに近況を語りあっていた。
 
「で。大智は相変わらず忙しい感じ?」

 追加で注文した料理を食べながら与田が尋ねる。弁護士と聞くだけで多忙なイメージだが、話ぶりからやはりそうなのだろうと由依は察した。

「そうだな。今度事務所が移転することになって。今は引越し作業に追われてるよ」

 箸を動かす手を止め、大智はゆったりした口調で答える。落ち着きを払ったその声は、追われてるとは真逆に聞こえた。

「引越し? 部署変わるのも大変なのに、事務所ごと移動か?」

 今度は佐倉に問いに、大智はまたゆったり答えた。

「規模を拡大していくから、とうとう事務所が手狭になってな。今度は佐倉の会社の近くだよ」
「へぇ。じゃあ気軽に飲みに誘えそうだな」
「だといいが。僕もまだまだ新米だしな。日々勉強中だよ」
「そっか、残念。まぁ、息抜きしたくなったら連絡くれよ」
「あぁ。ありがとう」

 そんなやりとりを見ながら、由依は昔を思い出していた。数年前、自分が世話になった弁護士のことを。忙しかっただろうに、いつも自分の勝手な都合に合わせてくれていた。今思えば酷いことをしたと思う。けれど当時の自分に余裕なんて無かった。大切な両親を事故で一度に亡くしてしまったのだから。

「――さん。……瀬奈さん?」

 だいぶ吹っ切れたと思っていても、こうやって不意に両親のことを思い出すと胸の奥が苦しくなる。
 きっとぼんやりしていたのだろう。自分を呼ぶ声が急に聞こえ、ハッとしながら顔を上げた。

「大丈夫?」

 向かいから心配そうな表情を向けている大智と目が合う。

(……なんて綺麗な顔、なんだろう……)

 そんなことを考えてしまうこと自体端ないことのように思えて、由依は気まずい気持ちで顔を逸らした。
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