一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 妊娠がわかった日から二日後の土曜日。出勤していた園長にタイミングを見計らい話をした。
 妊娠したこと、そしてその相手とは事情があり結婚する予定はないことを。その上でもう少し周りには黙っていて欲しいと頼んだ。園長はさすがに驚いていたが、それでも笑顔で祝福してくれた。

「いずれにせよ、新しい命が誕生するのはおめでたいことよ。わかったわ。周りにはまだ公表しないけど、理事長の耳には入れておくわね。短時間勤務ができるなら、そうしたほうがいいでしょうし」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 一つ不安が解消され気分が軽くなる。そのおかげか、悪阻は少し楽になった気がした。元々吐くまではいかないが、匂いに敏感になっていて時々ウッとなってしまう。できるだけその様子が人目につかないように過ごすのは至難の業だったが。

 園長に話をした翌週末。明日は勤務の入っていない土曜という日のことだった。
 子どもたちを寝かしつけ、他の先生たちと給食を取ろうと用意をしていると、園長が部屋にやってきた。

「瀬奈先生、ちょっといい?」

 小声で呼ばれて園長の元へ向かう。

「今理事長が来ていて。応接室でお待ちだから行ってきてくれる?」

 理事長と二人きりなんて初めてだ。就職する前の面接ですら園長一人だった。
 由依は緊張で早くなる鼓動を抑えながら応接室へ向かった。
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