一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
扉の前で深呼吸したあと、「失礼します」と部屋に入る。テーブルについていた理事長が、ジロリと値踏みするような視線を寄越した。
「座りたまえ」
高齢者特有のしゃがれた声で促され、会釈を返すと向かいに座る。
理事長は八十を超えているらしいが、かくしゃくとした人だ。聞くところによると、この園は地域から頼まれ仕方なく開園しただけで、子どもに興味があるわけではないらしい。たいていの保育士はこの人を苦手としていた。
「瀬奈先生、だったかな」
はい、と小さく返事をする。理事長は笑顔を浮かべるわけでもなく淡々と尋ねた。
「子どもができたらしいが、間違いないか?」
「……はい」
「そうか。それで、結婚の予定はないと聞いたが、それは何故だ」
理事長に厳しい表情を向けられ、由依は肩を揺らした。
「相手に事情がありまして。結婚までは……」
言葉を濁すように答えると、理事長の眉がピクリと動いた。
「まさか、相手は既婚者じゃないだろうね?」
「ち、違います。既婚者では……」
「だが、結婚の予定はないのだろう? 君は未婚のまま出産するつもりらしいが、それを周りにどう説明するつもりだ」
「それは……」
「座りたまえ」
高齢者特有のしゃがれた声で促され、会釈を返すと向かいに座る。
理事長は八十を超えているらしいが、かくしゃくとした人だ。聞くところによると、この園は地域から頼まれ仕方なく開園しただけで、子どもに興味があるわけではないらしい。たいていの保育士はこの人を苦手としていた。
「瀬奈先生、だったかな」
はい、と小さく返事をする。理事長は笑顔を浮かべるわけでもなく淡々と尋ねた。
「子どもができたらしいが、間違いないか?」
「……はい」
「そうか。それで、結婚の予定はないと聞いたが、それは何故だ」
理事長に厳しい表情を向けられ、由依は肩を揺らした。
「相手に事情がありまして。結婚までは……」
言葉を濁すように答えると、理事長の眉がピクリと動いた。
「まさか、相手は既婚者じゃないだろうね?」
「ち、違います。既婚者では……」
「だが、結婚の予定はないのだろう? 君は未婚のまま出産するつもりらしいが、それを周りにどう説明するつもりだ」
「それは……」