一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 部屋に戻り、すでに給食を食べていた他の保育士にどうしたのか尋ねられても、曖昧に答えて誤魔化した。
 どこか遠くに意識が飛んでしまったような、足元がグラグラと崩れてしまったような感覚。それでも子どもたちの姿を、この目に焼き付けておきたいと思った。
 今日のシフトは十七時で上がりだ。まだ保護者が迎えに来るには少し早い時間で、この時間に帰るのは由依だけだった。
 いつもと同じように挨拶をしに職員室に寄ると、目が合った園長はすぐさま駆け寄ってきた。

「私の力がないばっかりに、こんなことになってごめんなさい」

 涙を流しながら自分に謝罪する園長を、他人事のように眺めた。
 あまりにもショッキングな出来事に、涙さえ出なかった。無表情で「今までありがとうございました」と淡々と述べると、園長は「ごめんなさい……」とまた言って泣いていた。

 園を出て家まで、どうやって帰ったのか記憶に残っていない。今まで長い間通勤していたのだから、帰巣本能のようなものなのかも知れない。

 家に着き、鍵を開けて中に入る。その鍵を内側からガチャリと閉めると、ズルズルとその場に座り込んだ。
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