一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「……ふっっ」

 次々と涙が溢れてくる。熱い雫が頰を伝い、ポタポタとこぼれ落ちた。
 こんな形で園を去ることになるなんて思わなかった。不満が一つもないわけではないけれど、それでも居心地は良かった。
 短大を卒業する直前に両親を失い、とても就職する気持ちになれず、決まっていた就職先は辞退した。その後働こうと思えるまで二年近くかかり、新卒と同じ状態の自分を受け入れてくれたのが今の園だった。
 それから三年と半年。最初に担当したクラスの子どもたちは次の春、卒園を迎える。その晴れ姿をこの目で見たかった。送り出したかった。
 けれど自分の願いと引き換えに、それを失ってしまった。

 何かを手に入れると、何かを失う運命なのだろうか。

 そんなことが頭を巡り、涙が止められずにいた。

 玄関に座り込んだまま泣き続け、体がすっかり冷えきっていた。

(冷やしちゃだめだ……)

 まだ実感はないが、たしかに自分のお腹には大切な生命が宿っている。何かあってはいけない。そう思い直すと、ヨロヨロと立ち上がる。

「ごめんね。弱いお母さんで。今日だけ、許してね」

 お腹に手を当て、聞こえるはずもない言葉を投げかける。
 この子のために、泣いてなんていられない。強くなるんだ。由依はそう自分に言い聞かせた。
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