一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
その電話があったのは、翌日の昼前だった。
ベッドから起き上がることもせず、ダラダラと怠惰な時間を過ごしていたところだった。
"佐保樹"と表示された画面を見て、あぁ、帰って来たのかと思う。
樹はひと月前からパリに出張に行っていた。
元々予定されていた出張で、大智と会ったあの日も、しばらく会えないから食事でもと誘われた日だった。けれどその日は会えず、出張前に電話があったきり。もちろん今の状況を話せてはいない。
「もしもし……」
『お、由依! 帰ったぞ。今空港。今日は休み? 渡したいものあるし、そっち寄っていいか?』
深みのある艶やかな低い声と、その向こうに騒めきとアナウンスが聞こえた。樹は帰国して真っ先に自分に連絡してきたようだ。
「たっちゃん、おかえりなさい。……大丈夫。今日は休みだよ」
いつも通り明るく返そう。そう思うのに、思いの外掠れた弱々しい声になる。
『どうした? 体調でも悪いのか?』
「ちょっと色々あって。あのね、話したいことがあるの。あとで聞いてくれる?」
定期的に顔を合わせる樹に、妊娠したことを隠し通せるわけがない。言っておかなくてはと切り出した。
『あぁ、わかった。俺も由依に話したいことがあるから。じゃあ、またあとでな』
由依がうん、と返事をすると電話は切れた。
ベッドから起き上がることもせず、ダラダラと怠惰な時間を過ごしていたところだった。
"佐保樹"と表示された画面を見て、あぁ、帰って来たのかと思う。
樹はひと月前からパリに出張に行っていた。
元々予定されていた出張で、大智と会ったあの日も、しばらく会えないから食事でもと誘われた日だった。けれどその日は会えず、出張前に電話があったきり。もちろん今の状況を話せてはいない。
「もしもし……」
『お、由依! 帰ったぞ。今空港。今日は休み? 渡したいものあるし、そっち寄っていいか?』
深みのある艶やかな低い声と、その向こうに騒めきとアナウンスが聞こえた。樹は帰国して真っ先に自分に連絡してきたようだ。
「たっちゃん、おかえりなさい。……大丈夫。今日は休みだよ」
いつも通り明るく返そう。そう思うのに、思いの外掠れた弱々しい声になる。
『どうした? 体調でも悪いのか?』
「ちょっと色々あって。あのね、話したいことがあるの。あとで聞いてくれる?」
定期的に顔を合わせる樹に、妊娠したことを隠し通せるわけがない。言っておかなくてはと切り出した。
『あぁ、わかった。俺も由依に話したいことがあるから。じゃあ、またあとでな』
由依がうん、と返事をすると電話は切れた。