一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 家にある食べ物を、無理矢理胃の中に押し込みノロノロと部屋を片付け始める。最近はやる気が起こらずサボり気味だったが、樹がくるなら放置しておくわけにはいかない。
 空港から真っ直ぐにここに向かったのか、樹は二時間もかからないうちに家にやって来た。
 久しぶりというほど会ってなかったわけではないが、玄関に入って来た樹を見て思う。

(たっちゃん、大智さんに……似てる……?)

 顔がそう似ているわけではない。樹はどちらかと言えば精悍な顔立ちだ。二重の目はキリッと鋭く、目力が凄い。大智は同じ二重でも、どちらかと言えば涼しげな目元だった。髪だって、樹の柔らかな茶色の猫っ毛と大智の艶やかな黒髪は全く違う。けれど二人の身長は同じくらいで、体格も似ていた。
 いまだに大智のことを未練がましく思い出してしまう自分が嫌になる。もう忘れたほうがいいと思うのに、こうやってふと彼の姿を思い出してしまう。

 樹は鍵を閉め振り返る。目が合った途端その表情は驚いたように歪んだ。

「大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
 
 自分では意識していなかったし、最近はずっと青白い顔の自分が当たり前になっていた。それに仕事に行く時はメイクもしていたから気づかなかった。こんなにもすぐ、指摘されるほどの顔色をしていたなんて。
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