一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「既婚者じゃないならいい。いや、よくはないか。……あのな、由依。一人で子ども育てるって、想像以上に大変だぞ?」
真剣な表情で言う樹に、わかってるなんて、気軽に言える言葉ではない。口を噤んだまま由依は視線を落とした。
「由依には……話したことはなかったんだけどな。俺は母子家庭だったんだよ」
樹は両親と同じ施設にいたから、てっきり両親がいないものだと思い込んでいた。驚いて顔を上げると、樹は続きを話し出した。
「施設に入ったのは小学生の高学年になってからだ。それまでは母親と二人暮らしだった。父親が誰なのか、最後まで教えてもらえなかった。だがおそらく既婚者だ。俺たちはそいつに見捨てられた」
昔を思い出しているのか、樹は痛々しく顔を歪めた。その痛みが伝わってくるようで、胸が苦しくなる。
「母は看護師でな。頼れる人もなく、無理をして俺のために働き続けた。自分の体調なんか、二の次だったんだろうな。おかしいと思ったときには、もう手遅れだった。病気が見つかって、半年もしないうちにそのまま亡くなったんだ。だからな、由依。俺はお前に、同じ目に合わせたくないんだよ」
真剣な表情で言う樹に、わかってるなんて、気軽に言える言葉ではない。口を噤んだまま由依は視線を落とした。
「由依には……話したことはなかったんだけどな。俺は母子家庭だったんだよ」
樹は両親と同じ施設にいたから、てっきり両親がいないものだと思い込んでいた。驚いて顔を上げると、樹は続きを話し出した。
「施設に入ったのは小学生の高学年になってからだ。それまでは母親と二人暮らしだった。父親が誰なのか、最後まで教えてもらえなかった。だがおそらく既婚者だ。俺たちはそいつに見捨てられた」
昔を思い出しているのか、樹は痛々しく顔を歪めた。その痛みが伝わってくるようで、胸が苦しくなる。
「母は看護師でな。頼れる人もなく、無理をして俺のために働き続けた。自分の体調なんか、二の次だったんだろうな。おかしいと思ったときには、もう手遅れだった。病気が見つかって、半年もしないうちにそのまま亡くなったんだ。だからな、由依。俺はお前に、同じ目に合わせたくないんだよ」