一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
四章 運命の一夜 (side大智)
『お前は優しすぎる。医者には向いていない』
父にそう言われたのは、小学五年生のころだった。二人きりの部屋で目を合わすこともなく、独り言のように呟かれた言葉に衝撃を受けた。だがその反面、安堵したのを覚えている。
峰永会と言えば、その地域では有名な大病院だった。そして阿佐永の名前も、その病院を代々受け継ぐ家として名を轟かせていた。
自分はそんな家の、本家と呼ばれる血筋に生まれた。当時理事長だった祖父の、二人いる息子のうち長男が父。その父も、そして叔父も、医者として峰永会に勤務していた。父はいずれ理事長となるのだと、当然のことのように決められていた。
だから何の疑いもなく、自分もいずれ医者になるのだ、気がつけば自然にそう考えていた。けれど薄らと感じていた。自分は医者に興味はない。きっと向いてないだろうと。そして父はそれに気づいていたのかも知れない。
寡黙で物静かな父は、祖父には逆らえない人だった。いつも祖父に『わかりました、お父さん』と言う返事をしているところしか見たことがなかった。その父が祖父と言い争っているのを見たのは一度きりだ。
父にそう言われたのは、小学五年生のころだった。二人きりの部屋で目を合わすこともなく、独り言のように呟かれた言葉に衝撃を受けた。だがその反面、安堵したのを覚えている。
峰永会と言えば、その地域では有名な大病院だった。そして阿佐永の名前も、その病院を代々受け継ぐ家として名を轟かせていた。
自分はそんな家の、本家と呼ばれる血筋に生まれた。当時理事長だった祖父の、二人いる息子のうち長男が父。その父も、そして叔父も、医者として峰永会に勤務していた。父はいずれ理事長となるのだと、当然のことのように決められていた。
だから何の疑いもなく、自分もいずれ医者になるのだ、気がつけば自然にそう考えていた。けれど薄らと感じていた。自分は医者に興味はない。きっと向いてないだろうと。そして父はそれに気づいていたのかも知れない。
寡黙で物静かな父は、祖父には逆らえない人だった。いつも祖父に『わかりました、お父さん』と言う返事をしているところしか見たことがなかった。その父が祖父と言い争っているのを見たのは一度きりだ。