一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと

「――大智は医者にはしません。あの子は向いていない!」
「長男の子が医者にならずにどうするんだ!」
「誰が継いでもいいでしょう! それに経営者には僕より弟のほうが向いている」

 たまたま見てしまったその光景を、今でも覚えている。祖父の書斎の前を通りすがったとき、中から声が聞こえてきて立ち止まってしまった。

 父が自分のために祖父に進言したのかはわからない。それのおかげなのか、それ以降祖父は自分に医者になるよう言ってこなくなった。ただし自分に職業を選べたわけではない。医者と同等の職種と言えば弁護士だと、今度は祖母が引かず、それに従っただけだった。
 正直なところ、祖父よりも敵にしたくないのは祖母だった。
 生粋のお嬢様として育ち阿佐永家に嫁いで来たのが祖母。当時まだ今ほど大きくなかった病院が大病院になったのは、祖母の実家のおかげなのだという。だからなのか、祖父は祖母に頭が上がらなかったようだ。孫の目から見ても、とても夫婦仲が良いようには見えなかった。
 祖母は気位の高い人で、自分の息子、特に長男である父を溺愛していた。その息子の妻のことは当然気に入らず、辛く当たってところを何度も目撃していた。

 ――僕の家族は、どこか歪んでいる。

 心の奥底には、そんな気持ちが燻っていた。
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