一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 それでも、救いがないわけではなかった。

 母は祖母には従順だったが、芯の強い愛情深い人だった。いつも味方でいてくれ、さりげなく応援してくれていた。母はそれを周りにも同じように、なんの見返りを求めることなく行っていた。
 そんな母は、女性のためのシェルターを立ち上げ運営していた。祖母は反対したようだが、地元の有力者が賛同したため渋々受け入れたようだ。
 どうして母がその施設を作ろうと思ったのかはわからない。が、その理由の一つに、もしかしたら母の友人が関係しているのかも知れないと、のちに思った。

 その母の友人は、隣の市の外れにある古いアパートに、母一人子一人で暮らしていた。
 子どものほうは、十月生まれの自分より半年早く生まれた同級生。物心つく前からの付き合いで、幼なじみと言うより親戚のような感覚だった。むしろ、本当の親戚より頻繁に会っていたかも知れない。

 その幼なじみ、美礼(みれい)は自分とは正反対でアクティブな性格だった。会うたびに自分の手を引き、外へ遊びに行こうとせがまれていた。
 その日も同じだった。

「大智! 外で遊ぼうよ!」

 年齢で言えばまだ5才になったばかり。この頃は自分のほうが体が小さく、美礼に引き摺られるように引っ張られた。いつもなら仕方なく付き合っていたのだが、この日はどうしても外に行きたくなかった。
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