一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 通学時間は約一時間半。長いが読書をしていればあっという間だった。だが一つ、困ったことが起きた。
 それは友人たちにも相談できず、高校が近くだった美礼に会ったとき、それとなく話しをした。

「電車の中で女の子に声をかけられて困る? 何それ?」

 今まで寄ることもなかったハンバーガーショップのテーブルの向かいで、シェイクを飲みながら美礼は声を上げた。

「笑いごとじゃない。この前は危うく家まで押しかけて来そうな勢いだったんだから」

 溜め息を吐きながら、カフェラテの入る温かいカップを持ち上げる。

「まあ……その子たちの気持ちはわからないでもないけど。いくら野暮ったい学ラン着ててもその顔じゃあねぇ」
「電車の時間を大幅に変えるのも難しいし、車両を変えたところですぐ見つかるし。どうしたらいいのか……」

 読書の邪魔をされるのがとにかく憂鬱だった。名前を教えてとか、彼女はいるのかとか、くだらない質問を躱すのも。

「じゃあ、こういうのはどう?」

 名案を思いついたとばかりに美礼は手を合わせていた。

 そのとき美礼が言い出したことを守ると功を奏した。ただ伊達眼鏡をして前髪でできるだけ顔を隠せ。それだけのことだったのに。
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