一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
幾度となく、誰かに席を譲る姿を目撃した。時々友人たちと数人で楽しそうにおしゃべりしていたり、教科書を真剣な表情で眺めていたり。
彼女が同じ車両に乗っているのが目に入ると、ついその姿を追ってしまう自分がいた。近くに座ってくれないだろうか、なんて思ってしまうこともあった。
それが叶ったのは、卒業するまでの一年間でたった一度だけ。彼女がすぐ隣に座ったことがあった。
彼女は座るとすぐ、鞄から数学の問題集を引っ張りだしていた。隣で知らないふりをしながら文庫本を広げていたが、本当は気になって仕方ない。話しかけてみたいと思っても、そんな勇気なんて出ない。それに、急に話しかけたところで不審がられてしまうだろう。全く進まない本の同じページを眺めながら、頭の中で悶々としていた。
彼女の膝の上をふと見ると、問題集を解いていたその手はいつのまにか止まり、握ったままのシャープペンは無秩序な線を描いていた。ウトウトとし始めた彼女の膝からバサリと問題集が落ちる。反射的にそれを拾うと、裏表紙に書いてある彼女の名前が見えた。
『瀬奈由依』
それが彼女の名前だった。
彼女が同じ車両に乗っているのが目に入ると、ついその姿を追ってしまう自分がいた。近くに座ってくれないだろうか、なんて思ってしまうこともあった。
それが叶ったのは、卒業するまでの一年間でたった一度だけ。彼女がすぐ隣に座ったことがあった。
彼女は座るとすぐ、鞄から数学の問題集を引っ張りだしていた。隣で知らないふりをしながら文庫本を広げていたが、本当は気になって仕方ない。話しかけてみたいと思っても、そんな勇気なんて出ない。それに、急に話しかけたところで不審がられてしまうだろう。全く進まない本の同じページを眺めながら、頭の中で悶々としていた。
彼女の膝の上をふと見ると、問題集を解いていたその手はいつのまにか止まり、握ったままのシャープペンは無秩序な線を描いていた。ウトウトとし始めた彼女の膝からバサリと問題集が落ちる。反射的にそれを拾うと、裏表紙に書いてある彼女の名前が見えた。
『瀬奈由依』
それが彼女の名前だった。