一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
五章 巡る運命の輪
 まだ暑さも厳しい九月最初の日、由依は鏡に向かっていた。

「よしっ。こんな感じで大丈夫かな?」

 姿見で服装を確認すると、鏡の中の自分に問いかけるように独りごちた。
 なにしろ、通勤はほぼ二年ぶり。職場へ行けば着替えるにしても、電車に乗るのだからそれなりにキチンとしていたい。カジュアル過ぎない落ち着いた雰囲気のコーディネートにしてみた。

 今日から新しい園で働く。声を掛けてくれたのは、前の園で一緒だった松永先生だ。
 前の園を不本意な形で去ることになった自分に、一番初めに連絡をくれたのは松永先生だった。彼女は、自分が挨拶一つなく突然退職したことを不審に思ったらしい。そして園長に事情を聞いたのだと言う。理事長に対し、いい感情を抱いていなかった彼女は、翌年の春に退職していた。
 それからも時々連絡を寄越してくれた彼女に、退職の本当の理由を話した。その上で、もし良かったら、一緒に働かないかと言ってくれたのだった。
 新たな職場は、家から電車で三十分ほどと近く、大きなビルの中にある、企業が共同で今年の春開設したばかりの小規模園だ。松永先生が園長で心強かった。

「おっ、由依。いよいよだな!」

 ダイニングに向かうと、テーブルで朝食を取る樹が明るく声を上げた。

「なんか緊張するね」
「大丈夫だって。な? 灯希(ともき)?」

 そう言って樹は、まだ言葉の通じない一歳児に話しかけた。
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