一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「灯は樹に任せて、由依ちゃんはご飯の用意手伝ってくれる?」
「うん。わかった、じゃあ着替えてくるね」
二階建てのこの家の、二階は樹と眞央のスペースで、一階の奥の部屋は自分たちの部屋だ。そこに向かう廊下の手前には和室があり、まずはそこに入った。
明かりをつけると仏壇が現れる。樹は引越しする前から、この和室を仏間にするつもりだと言ってくれた。一人暮らしのときは場所がなく、置くことができなかった立派な仏壇に、今は両親の位牌と写真立てが飾られている。
その前に座ると灯希を膝に乗せて手を合わせた。
「お父さん、お母さん。ただいま。今日からまた働くことになったの。すごくいい園だったよ。見守っててね」
ここに越してから、こうやって仏壇の前で両親に話しかけるのは日課になっている。妊娠中も、出産後も、二人にその日あったことを伝えてきた。そしてもう一人の顔を思い浮かべながら。
樹にも眞央にも言っていないが、笑顔の両親が並ぶ写真の裏には、大智から貰った名刺が入っている。
唯一自分と大智を繋ぐもの。それを捨てることはできなかった。でも目につくところにあれば、連絡してしまうかも知れない。灯希を断りもなく産んだことを知られれば、彼に迷惑をかけてしまう。
けれどその灯希が将来、父のことを知りたいと言い出したとき、教えたいとも思った。遠くから一目だけでも、"あの人がお父さんだよ"とだけでも。
「うん。わかった、じゃあ着替えてくるね」
二階建てのこの家の、二階は樹と眞央のスペースで、一階の奥の部屋は自分たちの部屋だ。そこに向かう廊下の手前には和室があり、まずはそこに入った。
明かりをつけると仏壇が現れる。樹は引越しする前から、この和室を仏間にするつもりだと言ってくれた。一人暮らしのときは場所がなく、置くことができなかった立派な仏壇に、今は両親の位牌と写真立てが飾られている。
その前に座ると灯希を膝に乗せて手を合わせた。
「お父さん、お母さん。ただいま。今日からまた働くことになったの。すごくいい園だったよ。見守っててね」
ここに越してから、こうやって仏壇の前で両親に話しかけるのは日課になっている。妊娠中も、出産後も、二人にその日あったことを伝えてきた。そしてもう一人の顔を思い浮かべながら。
樹にも眞央にも言っていないが、笑顔の両親が並ぶ写真の裏には、大智から貰った名刺が入っている。
唯一自分と大智を繋ぐもの。それを捨てることはできなかった。でも目につくところにあれば、連絡してしまうかも知れない。灯希を断りもなく産んだことを知られれば、彼に迷惑をかけてしまう。
けれどその灯希が将来、父のことを知りたいと言い出したとき、教えたいとも思った。遠くから一目だけでも、"あの人がお父さんだよ"とだけでも。