一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 放送があったのはその週の金曜日。夕方六時台の関東ローカルのニュース番組。いつもなら夕食の用意をしている時間帯だが、今日は朝のうちに仕込んでおいたカレーにした。
 眞央からは、遅くなるから録画しておいてと言われていたため、録画がしながら樹と見ることにした。

「へぇ。由依、おっきいビルん中で働いてるんだなぁ」

 始まった特集は、まずビルを下から上へ見上げるように映し出していた。カレーを口に運びながら画面を見つめ、樹は感心したように言った。

「うん。と言っても職場は二階だし、それより上には、まだ行ったことないんだけどね」
「お。一階に大型書店か。どうりで最近、絵本が増えてきたと思った」
「充実してるからつい……」

 二人で同じ方向を見ながら会話する。灯希は興味がないのか、スプーンと手で子ども用のカレーを一生懸命食べていた。
 テレビはそのあと、ビル最上階にある従業員専用カフェテリアを紹介していた。
 実は園の給食はここで作っているのだが、保育士用の給食はない。各自好きに用意していて、このカフェテリアに食べに行くのも許されている。由依は基本弁当を持参していて、まだ一度も足を運んだことはないのだ。

「わぁ、思ってた以上におしゃれだ」

 利用している従業員たちは、いかにも都会の洗練されたサラリーマンやOLといったふうだ。
 同僚たちが"この格好、ちょっと浮いちゃうんだよね"と苦笑いしていた理由がよくわかった。
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