一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 月は変わり、十月に入り数日経った。あれから一週間。彼の姿を見かけることなく、平穏に過ぎていった。

 いつまでクヨクヨしていても仕方がない。自分には愛すべき家族がいる。だから前を向こうと心を決めた。

 今日もまた、いつもと同じように非常階段を通りエントランスに出る。スーツの上着を着ている人がすっかり増え、秋の気配を感じる。そろそろ灯希の冬服を用意しておかないと、と考えながら自動扉を出ようとしたときだった。後ろから誰が走り寄って来る気配がした。

「瀬奈さん!」

 驚いて振り返ると、そこにいたのは前とは違う、けれど自分がよく知る姿をした人だった。

「大迫……さん……」

 清楚な雰囲気のメイクに、一つに束ねられた長い髪。服装もシンプルなニットにパンツ姿だ。
 思わず近くに彼がいないか周りを見渡してしまう。それを見て彼女は言った。

「今日は私一人で来たの。ごめんね、待ち伏せして。少し話がしたくて……」

 申し訳なさそうな表情の彼女に、顔が強張ってしまう。何の話か、見当がつくようでつかない。二人がどこまで話をしたかわからないから。
 けれどもう、逃れられるわけがない。その気になれば、彼女は自分の家に来ることだってできるのだから。

「迎えがあるので……。三十分くらいなら大丈夫です」

 その答えに安堵したように彼女は一息吐く。

「ありがとう。じゃあ、とりあえず駅に行こうか」

 それに頷いて彼女に続いた。
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