一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 灯希を出産した病院は、家から歩いていける場所にある。彼女は勤務先のあるそこから、わざわざここまで来たのだろう。そこまでして自分に何か言いたいことがあるのだ。
 トボトボと彼女の横を歩いていると、先に彼女が切り出した。

「お子さん……灯希君、だったよね。元気? 大きくなったんだろうなぁ……」

 遠くを見ながら彼女はしみじみと言う。彼女が最後に灯希に会ったのは、彼の首がまだすわる前。母乳が出ているのか不安になり、病院の訪問ケアを受けたことがあり、そのとき来てくれたのが彼女だった。

「元気です。もう走り回ってて。公園に行くとへとへとになってます」

 一歳四ヶ月だと、個人差はかなりある。ようやくよちよち歩きの子もいれば、小走りもできる子。
 灯希が食べるわりにスリムなのは、動き回るからだろうなと思う。最近は少し目を離すと高いところによじ登っていることもあり驚くこともある。

「そっか。子どもの成長ってあっという間だよね」

 彼女は朗らかに笑いながら話している。その明るい表情に妊娠中も出産後も励まされたことを思い出す。少し年上で、自身も母子家庭だからつい気になって、と話してくれた彼女に。
 駅前まで来ると、彼女は店を指差し振り返る。

「ここでいいかな? あまり人目につかない場所がいいから」

 周りには賑わっている流行りのカフェが並ぶなか、彼女が指したのは、いかにも専門店と言いたくなるようなレンガの壁が印象的な喫茶店だった。
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