一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 戸惑いながら、正直にビル内のカフェテリアで耳にした話を彼女に聞かせる。
 その間にティーカップが運ばれてきて、紅茶のいい香りが漂っていた。

「事務所内でも噂されてるんだ。確かに、私が婚約者ってことになってるけど……」

 一人納得したように言ってから、彼女はカップを持ち上げ口に運ぶ。それをじっと見守った。

「詳しくは話せないんだけど、事情があって。婚約者がいるってことにしたかっただけなの。本当は婚約者どころか、付き合ってもないし。それに私たち、結婚できないくらいには近い親戚なの」
「親……戚……」

 遠回しな言い方を不思議に思うが、それでも親戚の言葉に、あからさまにホッとしてしまったのだろう。彼女は向かいで「安心した?」と笑みを浮かべた。

「先週、あのあと大智の様子があまりにもおかしいから尋ねたの。そしたら逆に、彼女と知り合いだったのかって聞かれて」

 安心したのも束の間、ドキリと心臓が跳ねる。何も言えずにいると、彼女は続けた。

「仕事でちょっとねって、それだけ。嘘じゃないしね。大智からは詳しくは何も。知っている人だったとだけ」

 じゃあ、なぜ? と疑問に思う。ちょっとした知り合いに偶然会ったからと言って、わざわざ会いにくるだろうかと。
 自分がミルクティーを一口飲み、カップを置いたところを見計らって彼女は口火を切った。

「瀬奈さん。見当違いだったらごめんね」

 彼女は明るく、何でもないことのようにそう前置きしたあと続けた。


「灯希君は……大智の子?」
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