一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「………え?」

 鎌をかけられているのだろうか。そう思わざるを得ない。いくら自分がシングルマザーだからと言って、ただの知り合いだと言う相手の子だと思うのは納得がいかない。それに彼女は灯希を知っている。あんなにも似ていないのに、どうしてそう思ったのだろうと疑問が湧いた。

「どうして……そう、思われたんですか……?」

 すでにこの狼狽えた様子が答えなのかも知れないが、優しい笑みを浮かべたまま彼女は答えた。

「遺伝って、不思議よねぇ……」

 唐突にそういうと、自分のバッグから何か取り出す。それをテーブルに置くと、スッと差し出した。
 古びた一枚の写真。そこには小さな女の子と男の子が写っていた。

「これは、大智が1歳と少しくらいかな。実家から借りてきたの。あ、ちなみにもう一人は私ね」

 それを見て、思わず「あ……」と小さく声を漏らす。そんな自分に彼女は話しかけ始めた。

「今の姿しか知らなかったら、きっと同じ人には見えないよね。大智、小学校に上がるくらいまで結構茶髪だったの。年とともに黒になったんだけど」

 写真に写る彼は、まさに灯希と同じ髪色をしていた。呆然とそれを見ている自分に、彼女はまた続けた。

「たぶん……父方の遺伝かな? 大智のお父さんも同じだったみたい。叔父さんは黒にならずに焦茶になったみたいだけど」

 灯希と同じくらいの彼を見て、不思議な気分になる。そして思わず、小さく声を漏らしていた。

「そっか……。ちゃんと、似てたんだ……」
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