一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 顔を上げると彼女は微笑んでいた。

「二人の間に何があったかは知らない。でも、大智のこと嫌いになったわけじゃないって思ってもいいかな?」

 諭すような優しい口調。そんな彼女に小さく頷いてから、そのまま視線を落とした。

「でも……。私は嫌われていると思います。大智さんに嘘の連絡先を教えました。何かあったら連絡してって言われてたのに、それすらしませんでした。だから……私を見て顔を背けたんだと思います」

 彼女を見ることができず俯いたまま膝に乗せた両手を握る。しばらくすると、彼女から呆れたような溜め息が聞こえた。

「もう……。何でそんなことしたのかしら?」

(彼女にも……嫌われてしまった……)

 自分の罪の大きさに泣きそうになる。それだけ酷いことをしたのだと。

「大智ったら! いくらあの場で感情を出せないにしても、あとであんなに落ち込むくらいなら、そんなことしなきゃいいのに」

 その台詞は、明らかに彼に向けられている。そして、彼女が呆れた相手も彼のようだ。
 顔を上げて彼女を見ると、困ったような笑みを浮かべていた。

「大智に関わることだし、私からは話せないんだけど……。少しばかり問題が発生してて。でもね、大智は瀬奈さんのこと、絶対嫌ってなんかないの。それだけは信じて」

 真っ直ぐに自分を見て、彼女はきっぱりと言い切る。
 胸の奥に、ふつふつと何かが湧き出してくる。それはずっと、蓋をし続けた感情。願ってはいけないと自分に言い聞かせてきた言葉。
 そしてそれは、彼女の口から発せられた。

「瀬奈さん。大智に……会ってあげてくれないかな?」
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