一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
六章 紡がれる糸(side大智)
美礼から"相談したいことがある"とメッセージが届いたのは、"あの日"からちょうど一週間後の木曜日だった。
どうしてあの場に由依がいたのかはわからない。きっと美礼が話しかけなければ、彼女に気づくことなくすれ違っていただろう。
けれどあの場で、彼女との再会を喜ぶわけにはいかなかった。彼女の向こうに、じっとこちらを見るその姿を見つけたから。
本当は、逃げるように去るその背中を追いかけたかった。その手を掴みたかった。どうしていたのか、今はどうしているのか、聞きたいことはたくさんある。でも実際には、そんなことはできなかった。ただ呆然とその背中を見つめるしかなかった。
自分の大切にしたいものの前には、いつも何か障害が立ちはだかる。一つ壁を乗り越えても、また一つ違う壁が現れる。そんなことを思うしかなかった。
いつもより早めに帰宅し、マンションの駐車場に車を停める。都内で事務所までそう遠くない、駐車場の空きもある物件があったのは幸運だった。といっても、今は間借り状態でしかないが。
車から降りるとあたりを見渡す。人影はなくホッと息を吐く。細心の注意を払いながらエントランスを抜け、エレベーターに乗り込むと十階を押す。部屋の前で、もう一度周りを確認し鍵を開けた。
奥のリビングからは灯りが漏れ、くぐもったテレビの音が聞こえていた。
「ただいま」
テレビの前のソファで膝を抱えて座るその人に声をかける。
「お帰り。早かったね」
そう言って彼女は笑みを浮かべた。