一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「――と言うことがあって……」
その日も念のため泊まったホテルの部屋から美礼に電話をする。シフト制で夜勤が入ることもある美礼だが、木曜日は休み。美礼に連絡が取りやすい日でもある。
『事情はわかった。婚約者のふりくらい、いくらでもするんだけど……』
歯切れの悪い台詞に、「何か心配でも?」と問いかける。
『大智、今家に帰ってないってこと?』
「あぁ。念のため。明日は帰ろうと思っている。夜中ならさすがにいないだろう」
昨日はいつもより帰宅時間が早かった。とはいえ、夜九時は回っていた。さすがに深夜にまで現れないだろう、と考えていた。
『引越しは? 考えてるの?』
「いや、すぐには考えていない。いると見せかけていたほうがいいかも知れないし」
若木先生からも、焦って引越ししないほうがいいと言われた。同じことを繰り返すことになるかも知れないからと。
『じゃあ、うちに来ない? お母さんが地元に帰って部屋空いてるし、一人暮らしはちょっと心細いのよねぇ』
今彼女の母は地元、つまり自分の実家がある市内にいる。自分の母の事業を手伝ってくれているからだ。
(そんなこと、今まで言ったことなかったのに……)
心細いなんて、自分に気を遣わせないための言い訳だろう。けれどその気遣いが有り難かった。
高校に入学してから転居した美礼の住む家は、24時間管理人が常駐するセキュリティのしっかりした分譲貸しのマンションだ。
その家は、当時父が手配したのだと聞く。おそらく、転居を繰り返すしかなかった、この母子のことを考えて。
その日も念のため泊まったホテルの部屋から美礼に電話をする。シフト制で夜勤が入ることもある美礼だが、木曜日は休み。美礼に連絡が取りやすい日でもある。
『事情はわかった。婚約者のふりくらい、いくらでもするんだけど……』
歯切れの悪い台詞に、「何か心配でも?」と問いかける。
『大智、今家に帰ってないってこと?』
「あぁ。念のため。明日は帰ろうと思っている。夜中ならさすがにいないだろう」
昨日はいつもより帰宅時間が早かった。とはいえ、夜九時は回っていた。さすがに深夜にまで現れないだろう、と考えていた。
『引越しは? 考えてるの?』
「いや、すぐには考えていない。いると見せかけていたほうがいいかも知れないし」
若木先生からも、焦って引越ししないほうがいいと言われた。同じことを繰り返すことになるかも知れないからと。
『じゃあ、うちに来ない? お母さんが地元に帰って部屋空いてるし、一人暮らしはちょっと心細いのよねぇ』
今彼女の母は地元、つまり自分の実家がある市内にいる。自分の母の事業を手伝ってくれているからだ。
(そんなこと、今まで言ったことなかったのに……)
心細いなんて、自分に気を遣わせないための言い訳だろう。けれどその気遣いが有り難かった。
高校に入学してから転居した美礼の住む家は、24時間管理人が常駐するセキュリティのしっかりした分譲貸しのマンションだ。
その家は、当時父が手配したのだと聞く。おそらく、転居を繰り返すしかなかった、この母子のことを考えて。