一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 由依は驚いたように顔を上げ、何か言いたげに唇を開く。けれど先に話し出したのは美礼だった。

「じゃあ私はこれで! 実は今から仕事なの」

 肩から下げたトートバッグを持ち直すと、美礼は勢いよく言う。

「えっ! 美礼さん、お仕事なんですか?」
「そうなの。ごめんね、由依ちゃん。最後まで付き合えなくて。ゆっくりしていって。あ、これ二人で食べてね」

 かなり打ち解けた様子の二人はそう言い合う。美礼が手にする見覚えのある箱は駅前にあるスイーツ店のもので、手にしていたそれを由依に差し出している。由依が受け取ると美礼は振り返った。

「大智は由依ちゃんに飲み物用意してあげてね。今日は夜勤だし、帰るのは明日。じゃあ、行ってくるね」

 至極当然のことのように言って、美礼は唖然としている自分たちを置いて部屋から出て行った。
 まるで一陣の春の風のようだ。春の訪れを告げ、根雪を溶かしていくような暖かな嵐は、自分たちの間にある蟠りをも解かしていくようだった。
 由依は不安より驚きが優っているのか、大きな瞳をいっそう大きく開いていた。そんな彼女と顔を見合わせる。その表情に自然と口元が緩んだ。
 由依の元に歩み寄ると、ポカンとしたまま彼女が手にしていた箱を攫った。

「何か飲む物を入れるよ。ミルクティーでいい?」

 すぐ手の届く距離にいる由依は、自分を見上げている。その表情を見つめると、二年前のあの幸せな日に引き戻されたように感じた。

「……はい。ありがとうございます」
「じゃあ、ソファに掛けて待っていて」

 こくりと頷くと由依はソファに向かっていた。
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