一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「二度……目……?」

 涙に濡れたままの瞳を開き、由依は声を漏らす。それに頷いてから口を開いた。

「隣り、座ってもいい? 話したいことがたくさんあるから」

 まだ戸惑いのある表情で少しだけ考えてから、彼女はコクリと頭を動かす。立ち上がり彼女の横に移動すると、ほんのりと彼女の温もりが伝わってきた。そしてそれが、現実なのだと確かめたくなった。

「……ごめん。嫌なら、押し退けてくれていい。でも……少しだけ、許して」

 そう断ってから彼女を抱き寄せる。温かな熱が、自分にいっそう強く伝わってくる。恐る恐る抱きしめた由依からは、拒絶されなかった。

「由依……」

 堰を切ったように思いが溢れてきた。こうしていることが奇跡のようで、このまま時が止まってしまってもいいとさえ思ってしまう。けれど、進まなくては何も始まらない。
 彼女を腕に収めたまま、ポツポツと話を始める。まだ幼なさの残る、高校の制服姿の由依の顔を思い出しながら。

「初めて由依に会ったのは、もう十二年も前のこと。今でもよく覚えているよ。通学の帰り、同じ車両に由依の気配を感じて、姿を見るだけで……幸せだった。声なんて、掛ける勇気もなかったから……」
 
 そこまで話し終えると由依はおもむろに顔を上げる。まだしっとりと濡れたままの睫毛が、瞬きしてしているのが見えた。

「まさか……。そんな……はず……」

 もしかして、心当たりがあるのだろうか。けれどもあの頃の自分は、今の姿とはずいぶん違っているはずだ。
 由依は呆気に取られたようにじっとこちらを見上げ、唇を動かした。

「いつも……本を読んで、いましたよね……?」
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