一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 彼女の大きな瞳から次々と涙が溢れ出ている。それを止める術を忘れてしまったように。
 自分から放たれた言葉を呆然と聞いていた由依は、その表情のまま唇を動かし始めた。

「私も……忘れたことなんて……なかった。忘れたくなかった……。自分を好きになってもらえる自信なんてなくて。だから……私……」

 クシャリと顔を歪めると、由依は項垂れるように俯いた。その細い肩は、泣き声と共に揺れていた。
 そっと背中を摩ってから抱き寄せる。凍えたように震える小さな体は素直に自分の腕の中に収まった。
 そのまましばらく、宥めるように背中を撫でていた。どうしても彼女には、罪悪感が残っているように見える。嘘をついてしまったこと以外で。
 どのくらい時間が経っただろう。静かなリビングから、由依の啜り泣く声が消えると、代わりにくぐもった声がし始めた。

「私……。大智さんに、謝らなくちゃいけないんです」
「……どうして?」

 優しく尋ねると、由依は体を起こし、赤く縁取られた瞳を真っ直ぐ自分に向けた。その目は、覚悟を決めた目だ。そう思った。

「約束したのに、言えなかった。連絡先だってもらっていたのに」

 どんな言葉が続くのか、固唾を呑んで待ち受ける。だがその発せられた言葉は、想像すらしていないものだった。

「あなたに黙って……子どもを産みました。男の子で、名前は灯希。今は一歳と四ヶ月です」

 雷に打たれたような衝撃。それと同時に、由依がこんなにも後ろめたさを見せた理由をようやく理解した。

「子……ども……」

 そう言うのがやっとだった。

 目の前で由依が驚いた表情を見せる。それを見ながら、自身を確かめるように自分の頰に手をやった。
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