一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
七章 手繰り寄せられた運命
重なった唇は二年前と同じで、優しく温かだった。蕩けそうなほど甘い口付けは、自分たちの間にあった蟠りも柵も全て溶かしていくようだった。
熱を帯び始めたその唇に翻弄され、思わずしがみついていた彼の腕に力を込めると、永遠に重なりあっていそうだった唇は名残り惜しそうに離れた。その気配に瞼を開けると、頰を薄ら上気させた彼と目が合った。
「紅茶、淹れ直そう。もうすっかり冷めてしまっただろうし」
ゆったりと笑みを浮かべた彼にそう言われ、気恥ずかしくなりながらコクリと頷く。
カップをトレーに戻すと大智は立ち上がり、キッチンへ戻っていった。その背中を見送ってから、つい深く息を吐き出していた。
(信じ……られない……)
ここを訪れたときは、緊張と不安に押し潰されそうだった。けれど、最初に目に飛び込んできた彼の柔らかな表情に、その不安は薄まっていた。
それでもまさか、自分たちがお互いをずっと昔から知っていただなんて思ってもいなかった。
(運命……)
これは最初から定まっていたことなのだろうか。いくつもの縁が繋がって、一つの糸になっていくような不思議な感覚。
同じ電車に乗り合わせていただけの自分たちが不意に再会し、もう二度と会うことはないと思っていたのに、先に身近な人と繋がっていて、それがきっかけでこうして未来を誓い合えるだなんて。
けれど、どうしてだろう。なぜかこれで終わらないような気がする。もちろん自分に未来がわかるなんて能力はないけれど、虫の知らせのような、そんな感じがした。
「お待たせ。今度は温かいうちにどうぞ?」
戻ってきた大智にカップを差し出される。その美しい琥珀色の紅茶は、ほのかに湯気を立てていた。
「はい。いただきます」
その手にした紅茶の芳しい香りが、気持ちを落ち着かせてくれるようだった。