一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 叔父から伝え聞いた話だけど、と付け加え浮かない顔で彼はその続きを話す。
 祖母は結婚後ほどなくして長男である父、その五年後に次男の叔父を産んだ。けれどその頃にはもう祖父は家庭を顧みることなく仕事だと言っては家に帰らない日々だったらしい。
 それがきっかけなのかはわからないが、祖母は彼の父に執着するようになった。祖父に容姿が似ていたからではないか、というのは叔父の憶測だ。
 そして祖父は、家ではなく外に癒しを求めるようになっていたのだという。それに気づいた祖母は、その相手に執拗に嫌がらせを続け、別れさせていたのだそうだ。

「……既婚者なのに、妻以外と交際していたのだから、褒められたものではないと思う。でも祖父は祖父で、家では得られないものを外に求めたんだと思う。美礼の母が……言っていたことがあるんだ。祖父はどこか孤独な人だったって」

 遠い世界の悲しい物語のようだった。自分には、にわかに信じられない世界。でもそれが、大智の暮らしていた場所なのだ。

「ずっと、僕の家は歪んでいると思いながら生きてきた。だから、無条件に家族が欲しいと言った由依が羨ましくもあったんだと思う」

 悲哀すら感じる表情で、大智はそう言った。
 両親を亡くし、これ以上ないくらい悲しい思いをした。けれど、家族がいるのにどこか孤独を味わいながら生きていくのも、胸が苦しくなるほど悲しいことだと思った。
 そんな由依に気づいたのか、大智はそっと由依の肩を抱き寄せた。

「そんな顔をしないで。今は……ずいぶん状況も変わったんだ。良い方に、と手放しに喜べはしないけど、それでももう、祖母に反対する力はないだろう。僕たちが結婚するのに、何の障害もないんだよ」

 大智はゆったり言うと由依に微笑みかけた。
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