一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 近隣では一番大きな公園が見えると、もう家はすぐそこだ。
 灯希といつも遊びに行く公園には、午後四時を回ったこの時間、小学生たちがはしゃぐ声がこだましていた。
 ここまで歩きながら、彼は自分たちの日常を聞きたがった。普段行く場所やお気に入りの場所など、灯希と過ごした日々を思い出しながらそれに答える。これからはその思い出に、彼が加わることに喜びを感じながら。

「ここです」

 公園を抜け一つ路地に入った、昔からある住宅の並ぶ地域。下町と呼ばれるエリアで、古くから住む人も多い。樹はそんなところが気に入って今の家を決めたらしい。
 ブロック塀で囲われた門を数歩入ると引き戸の玄関がある。鍵を開けゆっくり動かすとカラカラと軽い音がした。

「どうぞ、入ってください」

 大智が玄関を潜ると扉を閉める。
 家の中は静かで、誰の声もしていない。足元に視線を移すと、三和土には靴が二人分並んでいた。灯希の小さな靴と、細身のスニーカーは眞央のものだ。

「すみません、ちょっと様子見てきます。たっちゃん……家主がいないみたいで」
「大丈夫。勝手に上がらせてもらうわけにいかないからね。ここで待ってる」

 打てば響くようなその返事に頷き、先に家に入る。
 樹たちは自分がいないときも、彼らの居住スペースである二階に灯希を連れて行くことはない。一階の自分たちの部屋に勝手に入ることも無いから、いるとすれば場所は限られている。
 台所にも気配はなく、もう一つの場所、仏間にしている和室に向かう。物音一つ聞こえず、もしかしてと思いながら襖を静かに開けてみた。

(やっぱり……)

 そこには、お昼寝用のマットの上であどけない寝顔を見せる灯希と、その横に寄り添うように眠る眞央の姿があった。
 いつもこの時間に昼寝をしているわけではないが、おそらく灯希が興奮してなかなか寝なかったのだろう。

(どうしよう……)

 起こすわけにもいかず、しばし考え込んでしまっていた。
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