一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 歩き出した灯希に寄り添うように腰を屈めて歩く彼の背中を、ベビーカーを押しながら眺める。慣れない様子で、灯希の歩調に合わせ歩くその姿がなんとも微笑ましい。
 遊具のある場所まで辿り着くと、灯希はまずブランコに向かって彼を引っ張る。小さな赤ちゃんでも乗ることのできるブランコで、灯希の大のお気に入りだ。
 ベビーカーを邪魔にならないよう端に置き二人の元に向かうと、灯希はすでにキャッキャとはしゃぎながらブランコに揺られていた。

「楽しい?」

 大智はブランコの背を優しく押しながら灯希に話し掛けている。その顔はもう父親そのものだった。穏やかな微笑みを見ているだけで、心が温かくなっていく気がした。
 それにしても、と周りの視線に気づき思う。今日ばかりは、ママ友と呼べるような人がいなくてよかったと思う。遠巻きにこちらを見ているのは、同じように子どもを遊びに連れて来ているママたち。変装をしていない、素のままの彼の容姿は相当目を引くらしい。
 そばに立っているだけで視線が痛いのに、当の本人は何も感じていないのか平然としている。いや、慣れてしまっているというのが本当のところなのかも知れない。

 ブランコに飽きたのか、灯希は彼に降ろせと言わんばかりに両手を突き出す。大智は笑いながら降ろすと、また歩き出した灯希のあとを満面の笑顔で着いて歩いた。
 滑り台を滑ったり、砂場遊びをしたり。気が済むまで遊びに付き合っていると、一時間などあっという間だった。
 灯希はすっかり彼に慣れ、疲れたのか今度は抱っこをせがむ。そんな灯希を、彼は嬉しそうに抱き上げた。

「すみません、重いのに」
「ううん? 全く。むしろ嬉しいよ。幸せの重みだ」

 そんなことを喋りながら公園を散歩する。灯希は彼の肩に頭を乗せて眠そうな顔をしていた。

「そういえば、ここまでは何で来たんですか?」
「今日は車。近くのパーキングに駐めてあるよ」

 そこまで言うと彼は立ち止まり自分に向く。

「由依がいいなら、練習してみる? 走りはしないから」

 その申し出に、間を置いたあとゆっくり頷いた。
< 204 / 253 >

この作品をシェア

pagetop