一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 話しを聞いた眞央もまた、苦々しい表情を浮かべ溜め息を吐く。重々しい空気の中、真っ先に口を開いたのは樹だった。

「とりあえず……時期が今なのは不幸中の幸いってやつだな」
「そうだね、樹」

 どういうことだろうかと思う由依の前で、眞央は阿吽の呼吸の如く頷いていた。

「由依。明日から、行き帰りは付き添うから。仕事もちょうど落ち着いたし、俺たちのどっちかは時間合わせられるはずだ」
「だね。由依ちゃん。僕たちを安心させる意味でも、お願いするよ」

 そこまでしなくてもと頭を過ぎったことが筒抜けだったようで、眞央は願い出る。迷惑をかけるのではと思ったが、眞央の言葉にも一理ある。

「ありがとう、たっちゃん。眞央さん。じゃあ……明日から、よろしくお願いします」

 深々と頭を下げたあと顔を上げると、二人は温かな視線を自分に向けていた。

 部屋に帰ると、灯希は何事もなくあどけない寝顔を見せて眠っていた。それを確認すると、小さなテーブルの上に置きっぱなしだったスマホを手に取った。
 いつもなら灯希を寝かしつけているころには、大智からメッセージが届いているのだが、樹たちと話す前にはまだ来ていなかった。画面を付けると、つい数分前に届いたばかりのようだった。

『由依、変わったことはない? まだ事務所にいて、明日から数日泊まりで出張が入ってしまったんだ。会えなくて寂しいよ。返事は気にしないで。おやすみ』

 読み終えると画面を見つめたまま「出張……」と口にする。
 若木先生からは何かあったら伝えるように言われたが、このタイミングで伝えて良いものか悩む。大智の仕事に支障が出てしまう。それが一番心配だった。
 悩み抜いた末、当たり障りのないメッセージを打ち込む。もしかしたら今日のことはただの偶然かも知れない。それに樹たちも見守ってくれる。もしもまた彼女が現れたら、その時はちゃんと伝えよう。そう思った。
 メッセージを送りしばらく眺めたあと画面を閉じる。すぐに既読が付かないということは、まだ仕事中なのだろう。
 溜め息と共に布団に潜り込むと枕元にスマホを置いた。

(大智さんも……不安だったんだろうな……)

 天井を見上げて考える。家の前にストーカーが立っていたなんて、想像しただけでもゾッとする。
 けれどそれ以上何もないし、相手の立場もあり迂闊に警察には相談できないと大智は言っていた。

(……早く……解決すると、いいんだけど……)

 ウトウトとしながら、そう願っていた。
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